nagasakiika

H26年度国立大学図書館協会海外派遣事業の情報発信のための期間限定のブログです。

Yaleでのインタビューwith Ms.Emily FERRIGNO:学生と一緒に学生のニーズ調査をする

Yaleではもう二つ、インタビューをしてきました。(別記事で続けて投稿します)

Music Library(以下ML)のライブラリアンであるMs.Emily FERRIGNO (Library Services Assistant)に、MLでおこなった調査についてお話を伺いました。MLは、音楽を学ぶ大学院生(School of Music, Institute of Sacred Music, Music Departmentに所属する学生)へのサポートをおこなっており、今回紹介して下さったのは、School of Music(以下SoM) http://music.yale.edu/study/degrees-programs/の学生(3つの中で最も規模が大きいグループ)に対しておこなわれた調査です。

 

手法はDeniseさんのケースと同様、インタビューでした。ただし、外部から人類学の専門家をよんでレクチャーを受けたDeniseさんらのケースと違い、こちらはEmilyさんがethnomusicologyのPhDを取得しており方法論を心得ていたため、自身がリーダーとなり、インタビュアーとなった学生を指導して、調査をすすめていったとのこと。具体的な方法や結果は次のとおりです。

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【調査の目的】

・MLはSoMに必要な存在になることを目指しており、そのためには学生がふだんどのように大学生活をおくっているか、そのなかでMLをどのように使っているか(あるいは使っていないか)、彼らについての情報が必要だと考えたため。また、Emilyさん個人としても、学生が図書館に何を求めているのか知りたかったとのこと。

【方法】

・インタビューは質問紙(※)にしたがって口頭でおこなわれ、対象はSoMの学生約200人中40人、謝礼としてロゴ入りのイヤホンがおくられました。インタビュアーもSoMの学生のなかから、Emilyが3人を選んだそうです。

(※)質問紙の内容は、たとえば次のような項目です。
-Yaleでの一日の行動は?時系列で書いてください←もっとも重要なポイント
-MLに来て何をしていますか?
-指導教員はMLにあるリソースを利用するよう促しますか?
-つぎのMLのリソースのうち、どれが最も役に立ちますか?

 

【結果】
・学生たちはあまりMLを使っていないとの結果でした。彼らは基本的に忙しく、またMLには楽器を演奏する場所もなく、スコアを印刷する機械もないことが理由だそうです。学生がMLを使うとしたら、スコアをブラウズして借りる程度で、滞在はしないとのこと。彼らはむしろSoMのラウンジでくつろいでいることが多いということが明らかになったそうです。

 

【結果を受けて今後の予定】

・結果を受けて、新たなサービスを始めること、また既存のサービスの修正をおこなうことを計画している(あるいは既に実施している)とのことでした。たとえば、MLの2階にあった音楽関連の雑誌があまり使われていないことがわかったのですが、それらを1階に移動させたところ、学生たちはその存在に気がつき、手にとって見るようになったとのことです。また、ML内にもラウンジのようなスペースを準備しているところとおっしゃっていました。その他学生を図書館にひっぱってくるのではなく、図書館員自身がSoMに出向いてリソースの紹介などをおこなうEmbedded librarianshipの実施もされるとのことです。

 

【雑感】

・インタビューのなかでEmilyさんは、こうしたインタビューを通して、学生をひとつのcultureとしてとらえ、理解しようと努力すべきであること、彼らがふだんどんな行動をしているか、どんなふうに調査研究をおこなっているのか、図書館をどのようにとらえているのか明らかにし、それを受けてMLとして何をすべきか考える必要があるとおっしゃっていました。
・私はインタビュアーもSoMの学生だったというのはひとつの重要なポイントだと思いました。お互いSoMの学生なので、インタビューが比較的スムーズに進むこと、調査に学生の視点がはいること(質問項目の作成から関わったとのこと)、学生自身が新しい経験を積む機会になるということ、この調査をきっかけに今後のつながりができること、など、図書館員以外の立場の人と協力することの利点を感じました。

Yaleでのインタビューwith Ms.Emily HORNING and Ms.Sarah TUDESCO:学生のニーズを知り、学生をサポートする方法

Yaleで一番最後におこなったインタビューを紹介します。こちらは利用者調査についてではないのですが、学部生担当のライブラリアンであるMs. Emily HORNING (Director of Undergrad Program, Library Research Education)と、アセスメントライブラリアン(データライブラリアン)であるMs. Sarah TUDESCO (Assessment Librarian, Program Development and Research)にお話をうかがうことができました。

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(右がEmilyさん、左がSarahさん。)

お話の中で特に興味深かったのは、次の3点でした。

 1学生のニーズにあわせて幅広い機器(ときには犬)を貸し出しするサービス

 2アセスメント(データ)ライブラリアン

 3パーソナルライブラリアンプログラム

1 Emilyさんが勤務されているBass Libraryは主に学部生向けの図書館で、ここでは図書だけではなくいろいろな機材を貸し出しています。マイク、カメラ、ipad、そしてgoogle glassまで!(2014年2月3日付のCAでもとりあげられていました)

イェール大学図書館、グーグル・グラスを貸出開始 | カレントアウェアネス・ポータル

これらはすべてHPから予約でき、貸し出し状況もひとめでわかるようになっています。学生たちは調査研究のためにここで機材を借りていくとのこと。メディア機器はいつも貸し出し中で、図書よりもよほど使われているとおっしゃっていました。さらには therapy dog(medical school has therapy dog)と呼ばれる犬も貸し出しており、学生のストレスケアのために活躍しているそうです。


2 Sarahさんはアセスメントライブラリアンとして、図書館にかかわる様々なデータを扱い、分析し、ニーズ把握や予算の確保の根拠とする仕事をされているとのことです。例えば貸し出しデータを分析すると、学部生の貸出率は教員や大学院生と比べて明らかに減少していることがわかるといったことからニーズの変化をつかんでいることや、電子リソースの利用状況を見て、論文へのアクセス数やメンテナンスコストを把握しておくことも重要なタスクのひとつ(図書館予算の6割が電子リソースに使われているとのこと)とおっしゃっていました。分析にはMSのAccessやタブローhttp://www.tableausoftware.com/public/などのソフトウェアを使用しているとのことです。ちなみに、1で紹介したような貸し出し機器の予約状況を分析することも現在おこなっている調査のひとつだそうです。

 

3 学生のニーズにあわせたサービス提供をするためのシステムの一つとして、パーソナルライブラリアンプログラムについて説明していただきました。このプログラムは8年前から続いているとのことで、ライブラリアン一人につき30-40人程度の学生(対象は学部1-2年生)が割り当てられ、学習・研究をサポートするというものです。学生たちがパーソナルライブラリアンにコンタクトをとるきっかけはいくつかあるとのことで、たとえば学生宛に送ったメールに対して反応があったり、教員が「ライブラリアンに相談してみなさい」と促したり、あるいは友人から「役に立った」ときいて来たという学生もいるとのことです。また、新入生に対して図書館主催でおこなうレセプションがあり、そこでお互いに顔をあわせる機会があるそうです。ちなみに会場はBeinecke Rare Book & Manuscript Libraryという貴重書ばかりを収めた図書館です。

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 遮光のため大理石でできた外壁。この下をくぐるようにして中に入ります。

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圧巻の内部。奥の方にみえるのはさきほどの外壁。光が透けて入ってきているのがわかります。

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ここがレセプションをおこなう一角。

 

以上お二人とのインタビューで印象的だった事柄を挙げてみました。これらのサービスをそっくりそのまま真似ることはできませんし、またむやみに真似ることに意味は無いと思いますが、いかに学生らのニーズを把握し、実際のサービスに落とし込んでいくのか、そのプロセスや手法を知ることが、自分たちの大学で個別に取り組んでいく際の指針となると感じました。

 

今回の派遣結果については、今後いくつかの場所や媒体で発表する予定でいます。また現在、インタビューでききとれなかったことや、調査結果をまとめているなかで疑問に思った点について、改めて先方に追加質問をおこなっているところです。さらに充実した報告をお届けできるようにがんばります。お楽しみに。